日頃から、私たちはしばしば「男性らしさ」「女性らしさ」という言葉をよく耳にしますよね。私は、人は誰でも両性を備えているのではないかと考えています。
実際、私自身にも少なからず両性は備わっていると感じることが多々あります。例えば、物心ついた頃の記憶で今も鮮明に覚えているのが、紙でチェックのスカートを作ったことです。なぜスカートだったのか。残念ながらその理由は記憶に残っていません。今振り返ってみると、男の子とか女の子とかいう以前に、単純に可愛いと思ったのだと思います。それでも「なぜそれを身につけることができないのか」といった違和感にまでは到達しなかったのでしょう。正直、男性のファッションも、髪型も、言葉遣いも、興味はありませんでしたが、かといって「自分は女性」という意識を覚えるまでには至らず、今日こうして男性として過ごしています。
では、実際に自らの性に違和感を抱き、SRSを受けて“本来の自分の姿”となった人たちは、いったいどんな心境で自らの性と向き合ってきたのか。通勤電車の中で、ふっと降りてきたんです。「当事者に話を訊いてみたい」って。
すぐにスマホで「トランスジェンダー」と検索し、著者候補となる人を探しました。そして、ほんの5分ほどで「この人しかいない」という人物、つまり西原さつきさんに行き着いたのです。
そこからは、電光石火のごとし。会社の許可を得て西原さんにコンタクトを取り、数日後に面会する約束を取り付けました。普段はのんびりしている牡牛座O型ですが、これと決めると猛牛のように突進します(笑)
じつは、この段階ですでにある程度の構想をほんやりと描いていました。
「導入部は、絵本スタイルにしよう!」
……なぜ、そんなことを思ったのか?
理由は、本人の家族(特に母親)にも読んでほしかったから。
それまでにもトランスジェンダーを著者とする書籍は多数発売されていましたが、自叙伝的なものやキワモノ的な企画物など、どちらかというと興味本位で作られたものが大半でした。対して、私が求めていた方向性は、それらとは全く違うもの。“当事者やその家族に響く”本だったのです。
性に違和感を感じるご本人は、襲いかかる社会の壁に阻まれ、時には死にたくなるくらい辛いこともあると思います。でも、痛みを感じているのは、家族も同じ。本人の思いを汲みとめることができず猛反対したり、どのように接してよいかわからず困惑したり……。
そんな家族の方たちが、ご本人たちの気持ちを少しでも理解し、歩み寄れるようなきっかけになる本がつくりたい。そのためには、絵本がいちばん手に取りやすいはず!!
こうして『女の子って魔法だよね』は、絵本+グラビア+エッセイとジャンルを横断した書籍として、2020年1月、産声を上げました。全体を通して、「自分らしく生きることって素晴らしいことなんだ」ということが伝わるようなテイストに仕上げています。
西原さんは、2018年に『女子的生活』というNHKドラマで女優デビューを果たしましたが、一方でムロツヨシさんや草なぎ剛さんなど、役者さんの役作りでも手腕を発揮しています。主宰する乙女塾では、ボイストレーナーとして塾生の指導に余念がありません。さらには、全国の学校で生徒や先生に講義を行っています。
トランスジェンダーと呼ばれる人たちが、生きやすい世の中にする。
西原さんに声をかけて、心からよかったと思っている今日この頃です!
(追伸)
2021年8月、紙版の発売から1年半の時を経て、電子書籍(Kindle)を発行しました。
Kindle版刊行にあたり、コロナ前と後での西原さんの心境の変化などにふれたメッセージを新たに書き起こしていただきました。さらに、フォトも数点追加しています。