21世紀に入ってまもない頃、私はカメラマンとガイドブック制作のためマレー半島の西海岸を約3週間かけて取材していました。
まず、ペナン島で5日間。その後海路でランカウイ島に北上し、オプションツアーで観光客が訪れる南西部の3つの島々を小舟で巡っていた時のこと。
その小舟には、私とカメラマン以外に、中東出身らしい顔立ちをした青年が乗船していました。
その3つの島のうちのひとつ、シンガべサール島にて。
静かな海の砂浜におり、対岸に浮かぶ小島をカメラに収めた後、それまで一言も言葉を交わさなかった青年が、私たちに挨拶をしてきました。
青年「こんにちは。どちらからいらしたのですか?」
私 「日本、東京です」
青年「本のお仕事ですか?」
私 「はい。マレーシアのガイドブックを作っているんです」
青年「それは素晴らしい。
私はオマーン出身で、会計士をしているのですが、マレーシアは世界の
お手本となるような立派な国だと思っています。
なぜなら、マレー、中国、そしてインドと、3つの異なる民族が
長きに渡り手を取り合い、国家を形成しているからです」
私 「なるほど。確かにおっしゃる通りですね]
青年「それに比べ、中東ではほぼ毎日のように争いが起きている。
同じ人間なのに、どうしてこうも違うのかと思うと、恥ずかしくて
穴があったら入りたいくらいです…」
あれから約20年。残念ながら名刺を紛失してしまい、名前も居場所もわからない。
今、彼はウクライナの情勢を見て、どのような感情を抱いているのだろうか。
同じ星の住民同士で、争っている場合じゃ、ないですよね。
きっと彼も、同じことを考えているでしょう。
憎しみの連鎖は、人類の寿命を縮めることに直結している。
そのことをよく知っているから、マレーシアは数十年ものあいだ、一つに結束しているんですね。
この国の人々に触れていると、どこかに忘れてきた“心”を感じ取ることができます。
もし、機会があれば、都市部以外のマレーシアにも足を運んでみてください。
タクシーの運転手も、ホテルの受付のおばさんも、ワニと決死のショーを繰り広げるおじさんも、何度か通っているうちに黙っていてもシンハビールをテーブルに持ってきてくれるようになった屋台のお兄さんも、みんなイキイキしていますよ!